つれづれに・・・ 2008.6.1

最近秋月電子のオーディオが面白い。高性能なICが安価に売られているので、
つい通販時に余分に頼んでしまいます。結構多種を買い込んだような気もしますが、
ほとんどパッケージの封すら開けていないのが勿体ない。折角なのでちょっと色々と
試してみましょう。

1.LME49600

これは、いわゆるバッファーです。ちょうどSEPP(Sigle Ended Push-Pusll)アンプの最終段だけを
抜き出したようなものです。お値段は@550円。秋月の部品の中では比較的高価な部類でしょうか(笑)。
 
購入すると説明書の中にSMDタイプの素子が1個はいっています。 等価回路はデータシートから抜粋。

性能は仕様をみるかぎりすばらしいものです。


■  Low THD+N  (VOUT = 3VRMS, f = 1kHz, Figure 2) 0.00003% (typ)
■  Slew Rate 2000V/μs (typ)
■  High Output Current 250mA (typ)
■  Bandwidth
   BW pin floating 110MHz (typ)
   BW connected to VEE 180MHz (typ)
■  Supply Voltage Range ±2.25V d" VS d" ±18V

試して見よう
このICは電源をつなぐだけで動作しますから、つかって見るのは簡単です。
正負15の電源をつないで試してみることにしましょう。放熱板として銅箔テープをつかいました。
これだけ面積があるといつもつかう25Wの鏝だと半田付けにちょっと時間がかかります。
 
動作確認のために組み立て。電源をつなぐだけで動くので簡単です。

まずは無負荷で試して見ましょう。

入力に発振器をつなぎ、出力はそのままオシロに直結です。周波数を10kHz〜1MHzで振ってみました。
さすがにこの程度の周波数帯域なら位相遅れ、ゲイン低下もありません。

無負荷時
周波数 10kHz 
上:入力(500mV/div)、
下:出力(500mV/Div)
周波数 100kHz
上:入力(500mV/div)、
下:出力(500mV/Div)
周波数 1MHz
上:入力(200mV/div)、
下:出力(200mV/Div)


つぎは15Ωの負荷をつないでみましょう。

こんどは出力に15Ωの抵抗をつないでみました。 位相遅れはほとんどありませんが、振幅が若干低下しています。
10kHzのときを見ると、入力が2Vppなのに対して、出力は1.4Vpp(70%)になっています。15Ωの負荷ですから、
出力インピーダンスに換算すると6.4Ωになります。結構高い値ですね。
ということはLME4900単体で0dBアンプを構成するのはちょっと難しいでしょう。
負荷抵抗によって出力が変わるようだと、歪みが増えてしまいます。

負荷15Ω時
周波数 10kHz 
上:入力(500mV/div)、
下:出力(500mV/Div)
周波数 100kHz
上:入力(500mV/div)、
下:出力(500mV/Div)
周波数 1MHz
上:入力(200mV/div)、
下:出力(200mV/Div)

応用回路としては

実際にLME49600をアンプとしてつかうためには、データシートにあるようにオペアンプと組み合わせて
オーバールでNFBをかけるのが正しい使い方ででしょう。このようにするとあまりメリットが無いようにも
思えますが、出力段の電流を増やしたい場合にIC一つの追加で済みますから便利です。
アプリケーション例にもあるようにヘッドホンアンプなんかに適しているのでしょう。

応用回路例。前段にオペアンプをつかってオーバオールでNFBをかける。

2.LM4562NA
これも最近、秋月のラインアップに加わりました。デュアルタイプのオペアンプですが、
超低歪みなのが特徴です。@250円と、これも秋月のICにしてはちょっと高めです(笑)。
でも、普通に買うと2倍以上するらしいので、お得といえばお得です。

 
秋月電子で@250円で購入できます。              スペックは大したものです。

このオペアンプも一度動かしてみましょう。
お気楽ヘッドホンアンプの基板をつかって、約5倍の非反転アンプの回路を組んでみました。

評価用に組み立てた基板

せっかくなので手元にあるデュアルタイプのオペアンプを一緒に評価してみました。

手元にあったオペアンプたち。


評価の様子です。

評価法といっても簡単で、矩形波を入力してその出力を観測するといったものです。
周波数特性がどれくらいかを知ることができます。
調べてみて実感することができますが、オペアンプによって周波数特性はかなり大きく違います。
ただ、オーディオ帯域から考えればそれぞれ十分な特性をもっているので、最終的には耳での評価が必要になるでしょう。

矩形波の応答(上:入力、下:出力)
約900kHzの矩形波 約100kHzの矩形波 約10kHzの矩形波
OPA2604
(TI)
OPA227
(TI)
OPA2134
(TI)
4580
(JRC)
2114
(JRC)
LF412
(NS)
358
(NS)
LM4562
(NS)

今回調べたなかでは、OPA2604、OPA2134、LM4562の周波数特性がいいですね。
2114はオーディオ用としては定評がありますが、あまり高周波での利用には向いていないようです。
358は一番周波数特性が悪いようですが、なんかゼロクロスに変な挙動が見えます。これって何かな?

やっぱり試聴してみよう!
物理特性はオシロ計れても、それぞれがどんな音がするのかは実際に聴いてみないとわかりません。
聴くにあたっては、ICの銘柄を知った上で試聴すると先入観が入るので、自分自身でブラインドになるように
ICに目隠しシールをしました。ただし、シールを貼ると一番ピンがわからなくなるので、印だけはつけておきます。

ブラインド試聴のための準備。

試聴のためにはアンプを組み立てる必要がありますが、お気楽ヘッドホンアンプを組み立てました。
ゲインは約5倍で、出力のトランジスタはA1358/C3421をつかいます。
 
試聴用に組み立てたお気楽ヘッドホンアンプの基板。

試聴につかったソースとしてDACは最近作ったDAC1794-3.5のMJ定数変更バージョン。
プリアンプは電子ボリュームである。電子ボリュームをつかった理由は、音量の再現性が高いことである。
これをつかえば0.1dB以下の再現性が得られます。

そして試聴につかったのは、懐かしいナンバーですがケイコ・リーのBeautiful Love の1曲目と2曲目。
最初の1分程度を聴いて音質を判定します。
 

評価結果は

評価の方法は、ブラインドですから、オペアンプ銘柄がわからない状態で聴いて感想を書いて、
最後に一気に銘柄を御開陳しました。

結果は下記の通りで、お気に入りのOPA134が高評価で一安心しました。
LM4562は特段優れた評価が得られなかったようですが、特徴はありました。
なお358は、確実に歪みがでていて使い物になりません。オシロで観測された歪みがでていたのでしょう。

No 音の印象 オペアンプ銘柄
伸びのあるおとで余韻もよい。ただちょっと暖色系なのが気になるか。
もっとアタックが鋭くてもてもよいような気がする。ひょっとして4580では
ないだろうか(当たったらすごいな〜!!)。
2114
最初に音がなったときに変な感じがした。なぜだろう。
原因はちょっと歪みっぽいことだ。いや、実際に明確に歪んでいるぞ・・・!
音自体は明るめだが、歪みがひどい。
この原因はあとで調べる必要があるかも、である。このオペアンプはお気楽HPAとはあわない。たぶん358だろう。
358
これも音の出だしにゾクッとくるものがある。歪み感もほとんどない。音の余韻もよい。
この音がでれば合格点だ。いや、十分かもしれない。案外、これは4580だったりして(笑)。
この音は好きだ。
OPA2134
音の出だしがつまらない感じだ。この曲に慣れてきたからかもしれない。歪み感もなく、音として及第点である。
ただし、あまりに素直過ぎておもしろくないかも。2曲目もやっぱり、面白くないかな・・・・
でも、案外聴き疲れしなくていいかもである。長く付き合うにはいいかな。
OPA2227
この音は訴求力がある。目の前に音が迫ってくる。ひょおとして4番目のオペアンプを聴いたあとだからかもしれない。
歪み感もなくてよい。ピアノのアタックもいい感じで響いている。
このオペアンプいいです。案外お勧めかも。
4580DD
正確な感じの音がする。音の余韻、分解能もいい。というか音の粒立ちの点では今まで聴いたなかで一番いいのではないだろうか。聴き疲れするかもしれないが、オフミなんかではいい点が取れるかもしれない(笑)。ちょっと音のまとまりが悪いような感じもする。
このソースと合わないかもしれない。
LM4562
音の余韻がいい感じだ。ボーカルソロと合う。ただし、ちょときつめな感じもある。ただし、全体を通じて音のまとまりは良い方だ。
ちなみに電源OFF時のポップノイズがほとんどでなかった。これはいいかも。
LF412
音のまとまりがいい。この曲だと、ボーカルと伴奏がぴったしあう。おとの立ち上がりは比較した中で一番いいのではないだろうか。
この音もいいです。
OPA2604

しかし、上の評価についても聴く順番を変えたら評価が変わるかもしれません。
厳密な比較ではないので、まあ参考程度ですね。

3.LM4752

これはDIGIKEYで買ったもの。
7W×2のステレオ用のパワーアンプで@300円と安い。
ただし、HiFi用というよりかはラジカセやTV用などのアンプなのでしょう。
単電源での使用が基本になっています。

 
LM4752 千鳥足になっているが蛇の目のプリント基板にはちょっと無理すればはまります。

特徴と基本回路は下記の通りです。
ゲインは固定ですが、そのため帰還抵抗などが省略できるので部品点数は少なくてすみます。
必要な部品はDCカットとバイアス用のコンデンサです。
あとはスピーカの位相補償用のCRですが、これは必須ではないかもしれません。


とりあえず組んで見ましょう。位相補償用のCRは無しで、あとはデータシートとほぼ同じ定数です。
スピーカに接続しようかと思いましたが、ちょっと面倒そうなのでヘッドホンに接続することにしました。

まずは組み立て完了


ヘッドホンをつなげて試聴!

試聴結果は・・・・
電源に接続してスイッチON!・・・・・「ビィ〜〜ン・・・・・・・・」
なんと、ノイズがでるではありませんか。音楽の音量が上がると目立たなくなりますが、
無音時は盛大に聞こえます。こりゃダメです。ちょっとがっかり。
実装が悪いのかな〜 それともこんなものかな〜

ノイズがでるようだと、音楽に集中できなくなるのでちょっとこのままでは評価は難しそうです。

ということで、この基板はこのままパーツ箱の中で眠りにつきそうな予感です。

4.MJ回路

アンプも評価をしていて気付きましたが、MJ回路ってどんな特性か一度も計ったことがありませんでした。
ということで、ちょっと気になったこともあり早速測定してみることにしました。
測定するには回路を組み立てる必要がありますが、ちょうどDAC794-3.5-Aのアナログ基板が1枚余るので
これをつかって1回路をくみたてました。回路はほぼオリジナルと同じです。
ほぼというのは、FETを2SK246,117の換わりに2SK30Aを変更しています。
ただし出力のトランジスタは2SC960をつかいました。


MJ回路オリジナルとほぼ同じに組み立て

回路の特性評価には100kと900kHzの矩形波を入力して観測しました。
位相補償コンデンサの値を変えて波形を観測しています。

(a)2SC960を使用

位相補償コンデンサを入れないと、すこしリンギングが出ますが、まあこのくらいなら許容範囲でしょうか。
コンデンサを追加することで、リンギングは抑えることができます。位相補償コンデンサなしで
スルーレイトは32Vくらいでしょうか。結構高速な部類に入るでしょう。

出力トランジスタ(2SC960)
約100kHzの矩形波
(上:入力1ch 下:出力2ch)
約900kHzの矩形波
(上:入力1ch 下:出力2ch)
位相補償
C なし
すこしリンギングがありますが、
このくらいなら許容範囲のような
気もします。
位相補償
C=220pF
だいぶリンギングが
小さくなりました。
位相補償
C=680pF
ちょうどこのくらい
ならいいかな。


(a)2SC3421を使用

2SC960はメタルカンの絶命危惧種ですから、もちろん手元にたくさんあるわけではありません。
いざアンプを組むとなると他のトランジスタを使うことになりますから、ポピュラーなトランジスタに
変更して試してみました。


出力Trを2SC3421に変更。


位相補償コンデンサを入れないと、リンギングが出ます。2SC960に比べて若干大きいようです。
そのためC=680pFにしても、若干残るようですが、まあこんなものでしょう。
波形的には2SC960と比べても、ほとんど差はないようです。

出力トランジスタ(2SC3421)
約100kHzの矩形波
(上:入力1ch 下:出力2ch)
約900kHzの矩形波
(上:入力1ch 下:出力2ch)
位相補償
C なし
位相補償
C=220pF
位相補償
C=680pF


(3)先に評価したオペアンプと波形比較

MJ回路の波形をはオペアンプのそれと比較してみました。波形の形自身はOPA2134によくにていますね。
スルーレイトとしてはOPA2134と同じくらいです。ちなみにOPA2134のスルーレイトは標準で20V/usと比較的高速です。
しかしLM4562の波形がシャキッと立ち上がって、シャキッと立ち下がるのがものすごく奇異に見えます(笑)。
ゲート容量が悪さをするFET入力とバイポーラ入オペアンプの違いなんでしょう。

個人的にはちょっと丸みがあった方が好きだったり、って何の話かな(^^;)。

いずれにしてもMJ回路も比較的高速な部類に入るようですから、周波数特性等については気にする必要はないですね。

波形比較(上:入力1ch、下:出力2ch)
MJ回路
(位相補償C=220pF、2SC960)
OPA2134 LM4562
MJ回路
(位相補償Cなし、2SC960)

5.やっぱり電流帰還回路?

本当の意味で高速というのならやっぱり電流帰還回路でしょう。電流帰還回路はディスクリアンプのA6や
ヘッドホンアンプにR.さん設計で採用されたものです。ちょっと、電流帰還回路の特性も調べてみたくなって
手持ちのA6基板を組み立ててみまし。部品点数も少ないので組み立てにそれほど時間はかかりません。
つかったTRは2SC1815/A1015の汎用品です。

久しぶりに組み立てたA6基板。

実際に測定してみると、MJ回路やOPA2134、LM4562と比べても全然違います。
もっともアンプの性能というは回路で8割方決まりますから、方式の異なるアンプを比べても意味はありません。

さて、波形をみてみると位相補償のCがないと若干波形が暴れますが、15pFくらいをつけると安定します。
どのくらいのスルーレイトかを計るには、もっと立ち上がりが鋭い発振器が必要です。

波形比較(上:入力1ch、下:出力2ch)
f=975kHz f=115kHz
位相補償
C無し
位相補償
C=15pF

電流帰還アンプをIVアンプにつかたらDACもどんな音になるだろうか・・・・
ちょっと興味が沸いてきました。そういえばDAC8Dで比較試聴した覚えがあるぞ。

出力段をいじってみよう 2008.6.14

ここで、ちょっと遊んでみて出力段をLME49600に変更してみましょう。
もともとLME49600はこういった使い方をするためのICなので、良い結果がえられるかもしれません。
ユニバーサル基板に組んだLME49600があったので、それを活用して配線をすればOKです。
A6基板のバイアス回路と出力のトランジスタは不要なので切り取ります。

出力段にLME49600をつかってみました。

早速波形を見てみましょう。
すぐに違いがわかりました。もともとの回路だと位相補償Cが無い状態だと出力の信号波形が少し乱れましたが、
LME49600に変更した場合は位相補償Cが無い状態でも信号は安定しています。
ん!!!!この組み合わせはいいかもしれません。
IV回路あるいはヘッドホンアンプとしたら面白いかも!

波形比較(上:入力1ch、下:出力2ch)
f=117kHz f=992kHz f=3.05MHz
出力段
LME49600


位相補償
C無し

IV回路を試してみる。
DAC回路はDAC1794-3.5のデジタル基板を使えば簡単にテストができそうです。
ということで、配線をしてテストして見ましょう。

あたりまえですが、問題なく出力がでますね。ちなみに発振波形は11.025kHzの矩形波(だったかな?)
を信号として入力してます。PCM1794は8fs(fs=44.1kHz)で動いているので、信号は約2.8uS単位で
変わります。時間軸をのばしてみるとよくわかりますね。そして1つの階段が8分割されていますから
PCM1794内部の処理が64fsとなっていることがわかります。
 
IV出力波形(f=11.025kHz)       時間軸をのばすとパルスがでていることがわかります。

これでIVをつくったら超高速アナログだ〜!!!って完全にオーバスペック?

(つづく)